最高裁判所第一小法廷 昭和24年(れ)753号 判決 1951年3月15日
本籍
奈良県南葛城郡御所町戎町一二一五番地
住居
同県北葛城郡磐城村大字岩橋太田方九三一番地
農業
河井清八
明治四四年四月二五日生
右に対する業務上横領被告事件について昭和二三年一二月二五日大阪高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は刑訴施行法二条に従い次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人白井源喜の上告趣意について。
第一点原判決に挙げている証拠を総合すると、被告人が判示の綿布五七碼を受領した事実を認めることができる。それ故、右事実を認めるに足りる証拠がないことを前提とする論旨は採ることを得ない。
第二点所論は、或は原判決の認定と異る事実を想定し(一、四、八)、或は原審の採つていない証拠に基き(五、六、七)、或は原判決の認定を左右するに足らぬ事実を主張して(二、三、九)、原審事実審の権限に属する証拠の取捨判断及び事実の認定を非難するものであつて、適法な上告理由として認め難い。
第三点原判決は、被告人が「農事組合長代理として配給事務その他組合の業務一切を取扱つていたものである」ことは認めている。それ故、かかる被告人の横領は業務横領として処罰するは当然である。所論のように農事実行組合には法令上組合長代理が認められていないことは、業務横領を認める妨げとなるものではない。また前記認定に反する主張は、事実誤認の主張に帰する。それ故、論旨は採ることを得ない。
第四点横領罪は、自己の占有する他人の物を不正に領得することによつて成立するものであるから、その目的物が犯人以外の者に属することを判示することは必要であるが、それが何人の所有に属するかは必ずしも明示するの要はない。原判決は。所論のように三八碼の横領を認めたのではなく、二五碼すなわち報奨物資として農業会から交付を受けた五七碼から現実に配給した一九碼及び組合役員に分配した一三碼を差引いた残りの二五碼を横領した事実を認めた趣旨であることは、判文上明らかである。そして原判決挙示の証拠を総合すればこの事実を認めることができる。論旨は採ることを得ない。
よつて旧刑訴四四六条に従い裁判官全員の一致した意見で主文のとおり判決する。
検察官 長部謹吾関与
(裁判長裁判官 眞野毅 裁判官 澤田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)